印鑑の彫り直しの手順です
「よくある質問」のページでもハンコの彫り直しについてお答えさせていただいていますが、ここでは一連の工程をご紹介させていただきますね。
私は象牙については彫り直す価値はあると思います。 それは新規にお求めになるより安価だからです。
ただし、誤解なさらないでいただきたいのは、決して 「安い」 という意味ではございません。
人によっては 「彫り直してもそんなに高いの・・・」 と思われるかもしれませんので、あらかじめご了承願います。
※ 金額は直径や文字数にもよりますのでお気軽にお問合せいただければと思います。
それでは順をおって説明させていただきますね。
1、お預かりした象牙の印材です。(立派ですね!)
2、彫刻部分がお解りいただけますか?(あえて横向きにしてあります。)
3、先ず、荒いサンドペーパーで彫刻部分を削ります。(丁寧に丁寧に削ります。)
3、彫刻してあった文字が全く解らなくなりましたね。(けっこう削りましたよ~)
4、さらに削ります。(3と見比べてくださいね。)
5、ひたすら削ります。(目の細かなペーパーに変えました。)
6、柔らかくなでるように削ります。(ゴールまじかです~)
7、綺麗な平になりましたね。(けっこう時間もかかりました・・・)
サンドペーパーで優しくこすって平らにしますから、短くなるのは最小限にとどめます
実は上記のように平にするにはけっこう時間を要しますので時間制限や極端に安価を謳っている業者の殆どはこの作業もロボットで行います。(時間短縮のためです)
この場合、高速回転したもので削るため余計に削りすぎてしまう恐れがあります。(本来2~3ミリ程度でいいものが、それ以上削るともったいないですよね。)
そういう意味で私は象牙、黒水牛、牛角(オランダ水牛)の繊維質を余計に削り過ぎないように全て手で丁寧に削ります。(削る長さを最小限にとどめるためです。)
当店でも彫り直しのお問合せをいただく事がございます。おそらく親御さんの形見やお土産にいただいたもの(或はご自身で購入したもの)などではないでしょうか・・・?
いずれにしてもその印材に何かしらの思入れがあるのではございませんか? 「できたら再生して使用したい。」 「いつもこのハンコに見守っていて欲しい。」 など様々だと思います。
「ハンコは削ると縁起が良くないのでしょう・・・?」 お客様からこんな事をよく聞きます。 おそらく、ネットの情報を見て気になさっているのだと思いますが、全くそんな事はございませんので安心して下さい。
上記は単なる商売文句です。印材を削るのが面倒なので新しいものを売りたいだけなのです。意外とこういう業者にかぎって無資格者だったりするものです。(笑)
お兄さんの形見の印鑑
若い女性のお客様が3本の印鑑が入ったケースをお持ちになりご来店になりました。象牙印鑑の彫り直しの依頼でしたが価格を伝えると躊躇されたご様子でしたので、私は「親御さんとご相談されたらいかがですか?」 と言いました。
ただ、少し気になったのはその印鑑が殆ど使用していなかった事でした。彫刻文字を見ると実印には男性のフルネームが彫られていました。「差し支えなければ・・・」 と前置きしてご事情を伺うとお兄さんの印鑑でした。注文し出来た印鑑をあまり使用することなくご病気でご他界なさったとの事でした。
「近く結婚をするのでお兄さんが使っていた印鑑を彫り直して私が使おうと思いました。そうする事でいつもお兄さんが見守ってくれる気がします。」 言葉の言い回しは少し違うかもしれませんが、その女性がそうおっしゃるのを聞いて気の毒な思いと、お兄さん思いの優しい人なのだと心うたれました。
納期には余裕がありましたのでその日は下書きをお渡しする事になりました。お伝えした金額でよろしければ彫らせていただきますので、今一度、親御さんとご相談される事をお薦めしたのです。しばらく日をおいてその女性はご来店になりました。スッキリとした表情でこうおっしゃいました。
「やっぱり彫っていただく事に決めました。」
そうして上記1~7の作業行程(参照)で彫刻面を平にしました。数日後、完成した印鑑をとりにいらした女性に大変喜ばれご納得していただきました。「金額は高かったですが、彫り直していただいて良かったです。」 と おっしゃっていただきました。
私は 「気持ちをこめて彫らせていただきました。ずっとお兄さんが見守ってくれていると思いますよ。 どうぞお幸せに。」 と 言うと笑顔で帰って行かれたのが印象的でした。